知らないのは、あなただけ。


盆も過ぎると、窓の外で鳴く虫の声が変わる。

吹く風の向きが変り、夜はエアコンが要らなくなる。

夜に出歩くと、盆前まで活発に地べたを這いずり回っていたゴキブリが姿を見せなくなっていることに気づく。

外階段の灯りに飛んでくるのが、コガネムシから細長い奇妙な形のカメムシに変わる。


確実に季節が変わり、時が流れていることをことを、自分とは別のものの存在によって知らされる。



あなたは想像したことがあるだろうか。
光も何もない暗闇で、他には何も無く、自分だけが存在するという感覚を。

自我だけがあり、他のものは無であるので、何も変化しない。

天国でもあり地獄でもある。

何も変わらないから、時間というものさえない。

時間というものさえないということは、自分をも感じなくなる。 

「知らないのは私だけ。」

私以外の何かの存在によって、私は存在することができる。

「知らないのは私だけ」



昔、描いた絵に「部屋」というものがある。
部屋の中で人と人が向き合い、それを部屋の外から目が覗く絵。



これは、「自分が何かを見るという行為が、同時にその何かから見られることである」という現象をテーマにしたもので、いつも私の心の中にあるもの。

私がもし、この世にたった一人だったなら、絵なんて描かなかったろう……という感覚。

「この大きな世界を知らないのは私だけ」

この世に存在するもの全てが、互いの存在を交換して生きている。



「私の存在を、この大きな世界を知っているのは、私ではない何か。」

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